Doctorたちの愛車物語 武藤 実さんとユーノス・ロードスター(1996y)

ロードスターに乗ると、あの頃のワクワクが戻ってくる。
若き日にレースのために手に入れたロードスターが、20年以上の時を経てオーナーのもとへ戻ってきた。武藤さんが語る、再会のストーリーとは。

文・河西啓介(本誌) 写真・三浦孝明

Car/EUNOS ROADSTER (NA型)
マツダが1989年に発表した初代ユーノス・ロードスターは、軽量なボディに1.6リッター直列4気筒DOHCエンジンを搭載し、ライトウェイトスポーツカーの代名詞となった。武藤さんのロードスターは排気量が1.8リッターとなったマイナーチェンジ版。

30年近くの時を越えて

早朝の神宮外苑、並木道に心地よい排気音を響かせながら白いユーノス・ロードスターが滑り込んできた。運転席から降り立ったのは、東京・六本木で歯科医院を営む武藤実さんだ。

「このロードスターは、僕が28歳のときに買ったクルマなんです。富士スピードウェイのチャンピオンレースやフレッシュマンレースに出るために手に入れました。6つ上の兄から、“ハゲる前にオープンカー乗っておけよ”なんて言われたのもきっかけでしたね(笑)」

武藤さんはこのロードスターで約2年間、サーキットに通い腕を磨いた。その後、知人の息子が「自分もレースに出たい」と希望し、車両を譲ることになる。彼は数年にわたって走らせたが、やがてアメリカに渡ったのを機に、ロードスターは置かれたままになってしまった。

「結局、帰国してからも動かされず、長い間休眠状態だったんです。それが2年前、彼が結婚を機に“もう乗れないから”とクルマ整理することになって。20代で手に入れたロードスターが、50代になった僕のもとに戻ってきたんです」

戻ってきたロードスターの走行距離は2万5000km。年式から考えれば少ないが、その距離のほとんどはサーキット走行だから、かなりハードに乗られてきたとも言える。

「正直、状態はかなりひどかったです。雨ざらしで放置されていたからボディには土が積もっていて。初めて洗車場で水をかけたら、エンジンルームの塗装がバリバリ剥がれて(笑)。でもエンジンは驚くほど快調でしたね。オーバーホールもせず、問題なく走ってくれます」

左/愛らしい表情を作り出す、LEDリングが一体化したヘッドランプは北米のロードスターマニアの間で人気があるそう。中/機能的な運転席まわり。ハンドルは武藤さんの好みのものに交換されている。右/整備されたエンジンルームには剛性を高めるためのタワーバーが追加される。

初心を思い出させてくれるクルマ

蘇らせるにあたり、手を入れたのは走りに直結する部分だ。レカロシート、ロールバーを入れ、サスペンションやブッシュ類の交換。ボディは溶接箇所を増やし、剛性を高めたという。武藤さんの「走り」へのこだわり、クルマへの愛情が伝わってくる。

「やりすぎたこともありました。あえてパワーウィンドウをマニュアル式に戻したんですが、めちゃくちゃ不便で(笑)。戻したいんですけど、配線を切っちゃったから、簡単には戻せないんですよ」

ガラス製リアウィンドウは、最初期型ロードスターに採用されていたアクリル製に換装。ジッパーで開けられる仕様にした。幌を締めていても、リアウィンドウを開けて風を通す事ができる、ロードスター乗りの間では“NA開け”と呼ばれているという。

「今も月に2回くらいは乗っています。朝の散歩ドライブに出かけたり、サーキットに遠征したり。ひとりで行くこともあるし、妻を乗せて一緒に走ることもありますね」

武藤さんは現在もクルマ仲間たちと耐久レースに参戦したり、ちょっと旧いクルマで競うタイムアタックに出場している。

「決して速いクルマじゃない。むしろ遅いかな。今のクルマは速すぎて、アクセルを踏んだらすぐブレーキかけなきゃならないでしょ。でもロードスターだったらアクセルを踏み切れる。それが楽しいんです」

サーキットだけではない。都内の街中を軽やかに走る姿も、ロードスターならではだ。小さなボディに軽快な操作感、そしてオープンにしたときの開放感―。

「やっぱり乗っていて気持ちいいんですよね。特別なことをしなくても、ただ流しているだけで楽しい。ロードスターに乗っていると、免許を取って、マニュアルを練習したあの頃のワクワク感が戻ってくるんです」

Minoru Muto
1967年生まれ。東京都・六本木にあるセラミック専門の美容歯科「ニコラデンタルクリニック」院長。趣味は洗車とバーベキュー。

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