アルピーヌA110 GTSが究極のバランスを究めている理由。

「アルピーヌ」といえば現在のF1グランプリでも活躍するスポーツカーの名門だ。フランスの自動車メーカー「ルノー」とともに数々の名車を送り出してきたアルピーヌが、70周年を迎えるいま、数々の注目モデルを発表している。
文・南陽一浩 写真・アルピーヌ・ジャポン/南陽一浩

軽さと快適性を武器にモータースポーツの頂点を究める

フランスはノルマンディ地方、ディエップという小さな街で1955年、「アルピーヌ」は産声を上げた。ミッレミリアやラリーで実績を積み上げ、1970年代にWRCの初代タイトルを獲得。当時は国営だった公団ルノー傘下に入ってレース&スポーツ部門を担い、アルピーヌ・ルノーとしてル・マン24時間やF1をもターボ技術で制した。ラリーと耐久、フォーミュラカーと、モーターレーシングのあらゆる頂点を究めた稀有の名門でもある。

アルピーヌは1995年に一度、ブランドとして途絶したが、コンストラクターとしての実体は「ルノー・スポール」に受け継がれていた。実際、ディエップ工場はルノー・スポール・スピダーをはじめ数々のルノー・スポール車を生産し、2017年に再びアルピーヌの名で現行A110を復活させたのだ。

アルピーヌの個性は、「軽さと快適性の両立」に尽きる。これは黎明期からル・マンに参戦し続け、スポーツカーであり長距離ランナーであるがため。以上はハード面の特徴だが、ソフト面で言えばアルピーヌは「フランスの昭和」と言える熱い時代、カラフルな記憶と共にあるアイコン的存在でもある。加えて税制面でも軽快な現行A110は、欧州でここ数年、ポルシェ911を上回るスポーツカーのベストセラーだ。それでも通算で2万5000台程度の生産に留まる、希少な車ではあるが。

ブランド創立70周年を迎えた名門アルピーヌもまた、自動車業界に押し寄せる電動化の波のただ中にある。2018年に日本で発売されアルピーヌ復活の立役者となった現行A110も、2026年半ばに生産終了が見込まれている。現在、アルピーヌは多数の記念モデルを打ち出しており、中でも注目株は「A110 GTS」だ。

左上/オプションでアクラポビッチ製チタンマフラーも選択可。アトリエ・アルピーヌではボディカラーにGTS専用の新たなマットカラー4色も用意されている。右上/「エアロキット」はA110 Sと同じ、控え目なリアウイングを含む。さらに A110 R同様のサイドスカートとディフューザーが追加される「Rエアロキット」も選択可能だ。左下/タイト過ぎず、乗降性は良好。フォーカルのプレミアム・オーディオを標準装備する。右下/A110シリーズでもっともラグジャリ―かつ快適な仕様となるシート。筒状の小物ケースが左右シート間に備わる点も、ツーリング仕様として完成度を高めている。

エレガントでハイパフォーマンス快速GTパッケージの「GTS」

現行A110のラインナップは即ちシャシー・セッティングの違いで、シャシー・アルピーヌ(A)/同スポール(S)/同ラディカル(R)/同ウルティム(U)の4種類がある。GTSは、SのシャシーにAのGT仕様にのみ備わっていたヒーター&リクライニング機構付きの快適なレザーシートを、初めて備えた。しかもR譲りの高速安定性を実現するカーボン製エアロキットも選べる。シャシーRまたは同Uは確かに切れ味鋭いが、サーキット以外の日常では6点式シートベルトがむしろトゥーマッチ。そう感じる乗り手に嬉しい、エレガントかつハイパフォーマンス仕様が、GTSという訳だ。
エンジンは最高出力300ps、最大トルク340Nmと、そのスペックは今どきのスーパースポーツカーとしては決して大きくはない。が、車両重量1100㎏強と圧倒的に軽く、前後重量配分も44 :56の好バランス。いわば相対値として各要素を突き詰めることでA110は力強く敏捷でありながら、足まわりを無理に固める必要がない。美しい方程式のように見事な均衡点を見出せるからこそ、A110には各種の限定モデルが成立するのだ。
実車にGTSに触れてみた印象を綴ってみよう。サベルト製レザーシートにはアルプスの山並を想起させ、アルピーヌの「A」をモチーフとした山型パターンのステッチが施される。内装の落ち着いたグレートーンは、外装のカーボンエアロパーツと韻を踏んでいるが、「アトリエ・アルピーヌ」というパーソナライズ・コンフィギュレーターを通じて、オレンジやブルーなどアルカンターラ張りにも変えられる。
外装色は写真のブルー・ポン(孔雀の青)の他に、ヘリテイジカラーと呼ばれる1950~70年代の歴代モデルと同じヒストリックなボディカラーを敢えて選ぶことも可能だ。鮮やかな色でも控えめな中間色でも、全長4.25m×全幅1.8mの小さなボディだからこそ、派手過ぎずシックに仕上がる点もA110ならではだ。フレンチ・スポーツの軽さとは、お気入りの服を身にまとうがごとく、特別でありながらドライビングの楽しみを日々気軽に味わえること。アティチュードとしての軽さに、‘粋’が表れるのだ。

アルピーヌ創業70周年記念イベントが今夏、ディエップで行われた。伝統的なセダンを指す車型「ベルリーヌ」に対し、アルピーヌは小さなそれを表す「ベルリネット」と代々呼ばれてきた。会場には1975年のル・マン24時間を走ったA441Cも展示。ドライバーはマリー=クロード・ボーモンとレラ・ロンバルディの女性2人組で、当時として進歩的な出来事だった。

ALPINE A110 GTS
ボディサイズ 全長4255×全幅1800×全高1250mm(Rエアロキット付)、車両重量 1130㎏、1798cc直列4気筒DOHCターボ、最高出力300㎰/最大トルク340Nm、電子制御7速AT(DCT)価格1200万円~(税込)


電動化も着々! アルピーヌの新型EV「A390」
70周年イベントと同時にディエップでA390が発表された。アルピーヌは「ドリーム・ガレージ」というコンセプトの下、2028年までに7台のニューモデルを登場させる予定。来年にホットハッチの「A290」、ついでファストバック・クロスオーバーGT「A390」の日本上陸が見込まれる。いずれもA110の走り味を範とするEVで、その系譜が受け継がれていくのだ。


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https://www.ishikyo.or.jp/ourservice/candlsp/car/alpine/

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