
トヨタのスポーツカー・ブランド「GR」は、モータースポーツを起点に生まれ、日々進化を続けている。なかでもGRヤリスは、競技を前提に開発された特別な一台だ。レーシングマシン直系の技術をフィードバックしたその走りは、ドライバーにかけがえのない歓びをもたらしてくれる。
文・島下泰久 写真・トヨタ自動車

トヨタにスポーツカーを取り戻す
クルマ感度の高い方なら「GR」のことはご存知だろう。GRスープラにはじまり、GRヤリス、GR86、GRカローラと続々ラインナップを充実させてきている、トヨタのスポーツカー・ブランドである。
そのブランド名は、WRC(世界ラリー選手権)やWEC(世界耐久選手権)を筆頭とする世界のモータースポーツシーンで活躍する「TOYOTA GAZOO Racing」に由来する。そして、その象徴的存在と言えるのが、GRヤリスだ。
その開発手法は大胆で、量販車をベースに競技用車両を仕立てるのではなく、最初から競技を見据えた開発を行ない、そこから量販車を作るかたちを採った。まさしく「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」である。
じつは当時、トヨタのスポーツカーの系譜は長く途絶えており、社内にはノウハウがほとんど無かったという。GRの取り組みは、“トヨタにスポーツカーを取り戻す”ことでもあったのだ。
しかも「もっといいクルマづくり」に終わりはない。発売はゴールではなくスタート。モータースポーツの現場で鍛えられ、常に進化を続けているのがGRのラインナップなのである。

本物のレーシング・エンジンを操る
あらためてGRヤリスの姿を眺める。確かに顔つきはヤリスだが、3ドア化された車体はワイドで、そして低く抑えられている。ルーフは軽量なカーボン製だ。
エンジンは直列3気筒1.6ℓターボ。軽量ハイパワー、そして高い耐久性を主眼に開発されたユニットで、「匠」と呼ばれる熟練工が1基ずつ組み立てている。最高出力304ps、最大トルク400Nmという出力は、電子制御4WDシステムの「GR-FOUR」によって4輪に伝えられる。
こうした基本構成は不変ながら、前述のように2020年の発売以降も、クルマは丹念に進化、熟成が図られてきた。今回、試したのはその最新版だ。じつは昨年にも大掛かりな改良が行なわれたばかりだが、これは、「その時々の最善のものを提供する」という哲学に拠るものである。
昨年の改良で、そのフロントマスクは開口部が大幅に拡大されている。ただしこれはあくまで冷却性能、空力特性という機能性を追求した結果だ。




1.「モータースポーツで使うコクピットはどうあるべきか」をプロドライバーとともに追求し開発した、機能的かつドライバーファーストな運転席。2.縦引き式のパーキングブレーキがオプションで用意される。3.RZ“High performance”に標準装備されるBBS製18インチ鍛造アルミホイール。4.メーカーオプションとなる「エアロパフォーマンスパッケージ」では可変式リアウイングが備わる。
室内に乗り込むと、着座位置は低い。機能的なインストルメントパネルを含めて、まさにコクピット感覚である。トランスミッションは6速MTだけでなく、スポーツ走行に対応した8速GR-DAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)を用意する。
そしてシフトレバーの脇には縦型のパーキングブレーキレバーが備わる。本来、競技用のアイテムだが、オプションとはいえこんな装備が用意される量販車なんて、世界中を探してもGRヤリスだけだろう。
いざ走り出すと、そのエンジンのパワフルさだけでなく、いかにも精度の高い回り方に惚れ惚れしてしまう。それも当然だろう。何しろこれは本物のレーシング・エンジンなのだから。
MTにはこの珠玉のエンジンを完全に自分の手で操る歓びがあるが、ステアリング、ブレーキ、アクセルに集中して走らせられるGR-DATも捨てがたい。これはもう好みの世界である。
シャシーは操作に対してきわめて正確な反応を示す。最新型はボディ剛性の向上により、その精度がさらに上がっているのが実感できた。前後駆動力配分が異なる3つのモードを備えたGR-FOURの設定を切り替え、好みのハンドリングを導き出すのも楽しい。走りは奥深く、濃い。
とにかく走りの充足感が高い。全身からGRのスピリットというべき感覚が伝わり、まるで作り手と対話しながら走っているかのような高揚感が得られる。GRヤリスとは、そんなクルマである。

2017年からWRCに本格復帰し「TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム」として参戦している。写真はWRC最高峰のRally1クラスを走るトヨタGRヤリス・ラリー1。
モータースポーツでの活躍による知名度向上、そして実際のクルマの高い完成度から、GRのモデルはいま、世界的な人気となっている。日本からこんなスポーツカー・ブランドが出てきたことを、大いに誇りたい。

GR YARIS
WRCで培われた技術をフィードバックして生まれたトヨタ「GRヤリス」。専用設計された高剛性の3ドアボディに304ps/400Nmを発揮する1.6リッター直列3気筒ターボを搭載、電子制御4WDシステム「GR-FOUR」を組み合わせ、レーシングマシンを彷彿とさせる走りを実現する。ボディサイズは全長3995×全幅1805×全高1455mm。価格448万円〜。
※GRヤリスは(8月末現在)最短2カ月ほどでデリバリー可能となっている。納車時期についての最新情報はこちらから。https://toyota.jp/news/delivery/
町の楽しいクルマ屋さん「GRガレージ」
GRの地域拠点として誕生した「GRガレージ」。クルマファンが集い、語らい、一緒になってクルマを楽しむ。“町いちばんの楽しいクルマ屋さん”をコンセプトとし、クルマ選びの専門スタッフ「GRコンサルタント」が常駐している。
GRガレージについての問合せは下記店舗まで。
GR Garage東京蒲田 03-5711-7886
GR Garage東京北池袋 03-5917-2186
GR Garage東京三鷹 0422-39-6586
GR Garage東京深川 03-6660-2486