
歌手、女優、タレントとして、テレビやステージで長く活躍し、明るく自然体の人柄で親しまれてきた香坂みゆきさん。仕事や子育て、日々の暮らしをともにしてきた個性豊かな愛車遍歴から、香坂さんらしいクルマとの関係が見えてきた。
文・河西啓介(本誌) 写真・安井宏充
クルマ選びは、ほとんどサイズです
香坂さんの愛車はグレーの「フィアット500X」。乗り始めて一年ちょっとになる。
以前から小さな「フィアット500」が気になっていた。ただ、毎日の足として使うには少し小さすぎるかな、と思った。そこで選んだのがひと回り大きな500Xだった。クルマ好きの弟さんが中古車を見つけてくれたという。以来、電車にはあまり乗らず、仕事にも買い物にも出かける「毎日の、普通の足」になっている。
これまでのクルマ選びについて話を聞いていると、香坂さんのクルマ選びには、「大きさ」がとても大切な基準なのだと気づいた。そこであらためて尋ねると、こんな答えが返ってきた。「クルマ選びは、ほとんどサイズです。大きさですね」
ここでいうサイズは、単なる全長や全幅の数字ではない。その先にある、日々の使いやすさまでを含んでいる。香坂さんのクルマ選びで興味深いのは、大きさが、選んだ結果として決まる条件ではなく、暮らしに合う一台を探すための出発点になっていることだ。たとえば、自分自身が無理なく運転できること。子どもや必要な荷物を載せられること。学校へ迎えに行き、空港まで大きなトランクを運べること。選び方の基準が、実際の生活にしっかりと根ざしている。
香坂さんが免許を取ったのは18歳のとき。ただし、所属する事務所やマネージャーには内緒だった。「免許って、18歳になったら取るものだと思っていたんです。でも会社に言ったら、取っていいと言わなさそうだったので、内緒で取りました(笑)」
朝いちばんの教習を受け、マネージャーが迎えに来る前には自宅へ戻る。そんな生活を続けて免許を手に入れた。しかし、すぐに自分のクルマを持ったわけではない。最初の愛車を購入したのは28歳ごろ。ドラマの仕事で撮影スタジオなどへ通うために選んだ、クラシック・ミニのメイフェアだった。小さく、ラジオも聞こえないほどにぎやかなクルマを、約18年間手元に置いた。別のクルマを買ってからもしばらく手放せず、たまに乗っては楽しんだという。
子どもが生まれると、クルマに求める役割も変わった。子育て期には、ランドローバー・フリーランダーやシトロエン・ピカソを選んだ。後席を倒して自転車を積み、雨の日には子どもと自転車を一緒に迎えに行く。その時々の暮らしに必要な室内空間を考えながら、クルマを選んできた。クルマに生活を合わせるのではなく、まず自分の生活があり、そこにフィットする一台を選ぶ。その選び方は、とても地に足がついている。

クルマが主役じゃないけれど大切なピース
実用性とサイズが大切だからといって、便利で無難ならいいという訳ではない。「みんなと一緒は嫌だったんです。ころっとしたクルマが好きで、あんまり人が乗っていないのを探していました」
クライスラーPTクルーザーやシトロエンC4カクタス、そして現在の500X。みんなが選んでいるからではなく、自分に扱いやすい大きさで、自分の感覚に合うものを探す。その基準が、若いころからしっかりとあるのだ。
香坂さんにとって、クルマは移動手段だけではない。コンサートに向けて歌の練習をするのも車内。一人で飲食店へ入るのが苦手な香坂さんは、仕事の合間にパンを買い、クルマの中で食事をする。「そのほうが落ち着くんです」
誰にも気兼ねせず、声を出し、考え、食事をする。クルマは自分で行き先を決めるための乗り物であると同時に、外の世界から少しだけ離れられる、プライベートな空間でもある。「やっぱり、自分の自由というか。そういうものを担保してくれるものになりますね」
香坂さんのカーライフは、クルマ中心ではない。まず仕事があり、家族との時間があり、一人で過ごす時間がある。その暮らしを無理なく支え、行きたい場所へ自分の意思で連れて行ってくれる一台を選ぶ。
クルマは主役ではないけれど、それが欠ければ、自分らしい生活が少し成立しにくくなる。暮らしを組み立てるための、大切なピースなのだ。「免許を返納しなさい、って言われるまでは乗ってると思います」
クルマのある毎日を今もごく自然に楽しみ、みんなと少し違う、自分にちょうどいい一台を選ぶ。香坂みゆきさんの“クルマ愛”は、そんな自然体の中にある。

Miyuki Kosaka
1963年生まれ、東京都出身。14歳でデビュー後、歌手、女優、タレントとして幅広く活躍。生活情報番組『なないろ日和!』では10年以上にわたりMCを務めるなど朝の顔として親しまれている。その自然体なライフスタイルは同世代を中心に多くの支持を集めている。












