
新型メルセデス・ベンツSクラスに試乗する
1886年、カール・ベンツが世界初のガソリンエンジン自動車を完成させてから140年。
日本では1952年にヤナセがメルセデス・ベンツ車の輸入を開始し、以来70年以上にわたり、日本におけるメルセデス・ベンツの歴史をともに築いてきた。
そして140周年を迎えた今年、メルセデスのフラッグシップ、Sクラスが大きな進化を遂げた。ドイツ・ハンブルクで開催された国際試乗会に参加し、いち早くステアリングを握った自動車ジャーナリスト·渡辺慎太郎が、そのファーストインプレッションを伝える。
文・渡辺慎太郎 写真・Mercedes-Benz AG
車両全体の50%以上を改良
ホテルのクルマ寄せに横付けされたメルセデス・ベンツの新型「S450d 4MATIC」に乗り込んで、一般道に続く取り付け道路を10km/h以下くらいの速度でユルユルと運転していたら、もうその時点で「やっぱりモノが違うな」と思った。そもそも現行のSクラスはほとんどケチの付けようがない出来映えだったのだけれど、マイナーチェンジを受けたそれはさらに仕上がっている印象だった。
メルセデスによると、新型Sクラスは車両全体の50%以上、あるいは約2700点ものコンポーネントを新規開発、あるいは改良したという。一般的なマイナーチェンジのレベルをはるかに超えた手の入れようである。クルマの進化のスピードは総体的に加速している。Sクラスはメルセデス· ベンツのフラッグシップモデルであり、次のフルモデルチェンジまでじっと手をこまねいているわけにはいかなかったのだろう。
それを象徴するのが最新世代のMBUXとMB.OSの採用である。MBUXとは「メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス」の略で、2018年の導入以来、メルセデスのコクピットのインターフェイスは様変わりした。新型SクラスのMBUXバーチャルアシスタント機能では、ChatGPT/Microsoft Bing/Google Geminiを統合し、状況に応じてこれら3つの生成AIを活用、音声認識により自然な会話でパーソナルなデジタルアシスタントを提供する。
運転支援/駐車支援機能もアップデートされている。新型Sクラスは10台のカメラ、5台のレーダーセンサー、12台の超音波センサーが常にクルマの周囲の状況を把握。高性能コンピュータがカメラやセンサーからのデータを処理して安全かつ正確な運転支援と駐車支援を実現している。
日本仕様には2種類のパワートレインが用意された。「S450d 4MATIC(ISG仕様)」には2988ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。これまで以上に早く効率的な排気後処理を可能とするため、量産車としては初めて電気加熱式触媒コンバータを採用した。「S5804MATIC long(ISG仕様)」には3982ccのV型8気筒ツインターボエンジンを搭載。一般的にはスポーツカーのV8エンジンに好んで選ばれるフラットプレーンと呼ばれるクランクシャフト形式をあえて採用することで、瞬発力がありながらもスムーズな加速感と効率的なエンジン燃焼を両立し、最新の排出ガス規制基準をクリアしている。


1.リアコンビネーションランプには、片側3つのスターデザインを採用。クロームのトリムとともに、ひと目で新型とわかる印象的なリアビューをつくり出す。2.新型Sクラスでは「MBUXスーパースクリーン」を全車に標準装備。14.4インチのメディアディスプレイと12.3インチの助手席用ディスプレイを一体感のあるデザインで配置する。3.Sクラスならではのゆとりと上質さに満ちたリアシート。新型では後席の快適性やエンターテインメント機能もさらに充実し、フラッグシップにふさわしい移動空間に仕立てられている。4.後席左右に用意されるMBUXリアリモートコントローラー。リアエンターテインメントをはじめ、後席からさまざまな車両機能を直感的に操作することができる。5.S450d 4MATICに搭載される3リッター直列6気筒クリーンディーゼル。電気加熱式触媒コンバーターを量産車として初採用し、より迅速で効率的な排気後処理を実現している。
乗員の上着を脱がせる理由
Sクラスの乗り味でもっとも優れているのは、パワートレインや速度や路面状況などが異なっても、同種の乗り心地と静粛性と操縦性とパワートレインの動的質感を揃えている点にある。乗り心地と操縦性に関しては、標準装備の「AI RMATI Cサスペンション」がボディの動きを巧みにコントロールすることで、フラットライドな乗り心地と正確でレスポンスのいい操縦性をもたらしている。Sクラスのように市街地から高速道路の巡航まで、ドライバーが同じような気持ちでステアリングを握っていられるクルマは意外と少ないのである。
他にもここには書き切れないほどのさまざまな装備や機能がSクラスには備わっているのだけれど、個人的に感銘を受けたのはS580に標準装備される前席の「ヒーテッドシートベルト」である。これはシートベルトに内蔵されたヒーターが、最大44℃の温度で乗員の身体を暖めてくれるというもの。そう聞くと快適装備のようだが、実はもうひとつ重要な役割がある。冬場にはダウンジャケットや厚手の上着を着ている場合が多い。そのままシートベルトを装着すると、万が一の場合にシートベルトを自動的に巻き上げるプリテンショナーが発動しても、乗員をシートにしっかり保持するのに上着の厚みの分だけ遅れてしまう。つまりヒーテッドシートベルトには、乗員の上着を脱がすという安全性の向上を果たす大切な目的があるのだ。まさにイソップ童話の『北風と太陽』である。
おそらく羽毛がたっぷり入ったダウンジャケットを着ていたとしても、着ていない時と比べて身体を押さえる時間の差は1秒にも満たないだろう。それでもそこを縮める方法を全力で考えるメルセデスの姿勢には敬服するしかない。相変わらず、彼らの安全性に対する追求には、微塵の妥協も見られないのである。
Mercedes-Benz S450d 4MATIC
メルセデス・ベンツのフラッグシップ、新型Sクラス。S450d 4MATICは3.0リッター直列6気筒クリーンディーゼルにISGを組み合わせ4輪を駆動する。ボディサイズは全長5195×全幅1920×全高1505mm。価格は1,598万円。(※写真は本国仕様のS450d Long)

YANASE meets Mercedes Classic 簗瀬次郎が愛した、最高峰のセダン
1963年、メルセデス・ベンツの最高峰モデルとして誕生した600シリーズ。そのロングホイールベース版「600 Limousine(通称プルマン)」は、全長5,400mmの堂々たるボディと当時の技術と贅を尽くしたつくりで、各国の王侯や国家元首にも愛用された特別な存在だった。その「最高の乗用車をつくる」という思想は、のちのSクラスへと受け継がれていく。写真の600プルマンはヤナセ名誉会長、故・梁瀬次郎氏が愛用した一台。1952年からメルセデス・ベンツを日本のユーザーに届け、その価値を伝え続けてきたヤナセにとって、このクルマは特別な意味を持つ。メルセデスの最高峰を知り尽くした梁瀬氏。その一台は70年以上にわたるヤナセとメルセデス・ベンツの関係を象徴する存在でもある。














