
飯田裕子× 木村有太子
医師の木村有太子さんと、自動車ジャーナリストの飯田裕子さん。仕事もカーライフも異なるふたりだが、愛車の話が始まると、クルマへの思いが少しずつ重なっていく。好きな形や色、運転しているときの気持ち、そして暮らしの中での役割。
スペックだけでは語れない、クルマとの付き合い方について話してもらった。
写真・三浦孝明
スポーティだけど実用性もほしい
木村 いま乗っているのは、メルセデス・ベンツのCクラスクーペです。前にも乗っていて、同じモデルをもう一度選びました。
飯田 Cクラスクーペ!素敵だと思います。同じモデルを乗り継いだということは、かなり気に入っていたんですね。
木村 とにかく形が好きなんです。エレガントで、かっこいい。前のクルマはすごくきれいなブルーだったんですけど、今度は少し黒っぽい色に乗ってみたくて、外装をグラファイトグレーにしました。明るいところではグレーに見えて、暗いところでは黒っぽく見える。内装は朱色というか、オレンジっぽい色です。外はシックだけど、中は少し華やかにしたかったんです。
飯田 外と中で印象が違うのは素敵ですね。運転は以前から好きだったんですか?
木村 大学が栃木で、クルマがないと生活できないような場所だったので、学生の頃からクルマに乗ることが普通でした。医師になって東京へ来たばかりの頃は、運転が少し怖かったんです。でも勤めている病院が、家からちょっと離れているので毎日のようにクルマ通勤で、それが15年くらい続いています。最初はBMW Z4に乗っていたんですよ。
飯田 2シーターのオープンカーだったんですね!
木村 そうなんです。もともとスポーティなクルマが好きで。でも大きなトラックの後ろを走るのが怖かったり、高速で飛び石をもらったりして、毎日の通勤には少し不安になって。それでCクラスのワゴンに乗り換えたら、職場の先生たちから「結婚するの?」って言われましたけど(笑)。その後、ドイツへ留学するために一度クルマを手放して、帰国したときに目に留まったのがCクラスクーペでした。スタイルにひと目惚れした感じです。
飯田 スポーティだけど実用性もある。クーペってバランスがいいですよね。私はいま、ポルシェ・ボクスターとスバル・クロストレックに乗っています。ボクスターは自然吸気の6気筒でマニュアル。これと同じ仕様はこれから手に入りにくくなってくるだろうし、すごく気に入っているので、できれば走行距離を増やしすぎたくないんです。でも東京と実家を行き来することが増えて、1台だけでは不便になってきました。
木村 それで、もう1台を探したんですね。
飯田 高速移動が多いので、着座位置が高くて、渋滞ではアダプティブ・クルーズ・コントロールが使えるSUVがラクなんです。それに実家の方は雪も降るから、四駆の安心感も欲しかった。気取らず、いい意味で走り倒して、使い倒せる相棒のようなクルマがよくて、クロストレックを選びました。

ドライブに行くと相性や性格がわかる
木村 ボクスターとクロストレックでは、性格がかなり違いますね。
飯田 そうですね。以前はアウディにも乗っていて、四駆の安心感はよく知っていました。その反動で、前から欲しかったマニュアルのポルシェに乗った。でもやっぱり四駆の安心感と、運転する楽しさの両方が欲しくなったんです。性格の違う2台があると、カーライフの幅も広がりますよね。
木村 好きで残しておきたいクルマと、日々の生活で頼れるクルマがあるということですね。
飯田 そうなんです。木村さんのクルマ選びを聞いていると、「クルマをまとうように乗る」という言い方が似合うなと思いました。人と違うクルマに乗りたいというより、自分にとって着心地のいいシェイプやデザインを選んでいる。クルマが自分の表現になっているんですよね。
木村 確かに、性能を細かく比べたというより、最初は形でした。色も、光によってどう見えるかの方が気になります。
飯田 分かります。以前乗っていたアウディも、光の加減によってブルーや濃いグレーに見える外装で、内装はキャラメルのような色でした。何色かということより、「この光でこう見えるのが好き」「この質感が心地いい」という感覚を楽しめるクルマがいい。もちろん男女で一括りにはできませんが、女性には、そういう感覚でクルマを選べるところがあるように思います。
木村 男性は、排気量やパワーの話から入ることが多いですもんね。
飯田 数字やスペックも大切です。でも「この色が好き」「この形がかわいい」という気持ちも、同じように大切にしていいと思います。「私がいいと思っているんだから、いいの」という思い切りですね。
木村 クルマの選び方にも、人柄が出るということでしょうか。
飯田 選び方にも、運転にも出ると思います。例えば合流で、頑なにほかのクルマを入れない人を見ると、「一台入れたって変わらないでしょう。狭いのは、あなたの心?」と思ってしまいます(笑)。
木村 私は、前のクルマとの距離を詰めすぎる人が怖いです。助手席にいると、自分の足でブレーキを踏みたくなってしまう。
飯田 運転には、その人の本性的なものが出ますよね。デートで一緒にドライブすると、性格や相性もけっこう分かると思います。

クルマは道具でありかけがえのない相棒
木村 クルマって、私にとっては、自分に戻るための場所でもありました。大学病院に勤めていた頃は、患者さんの急変などで帰りが遅くなることもあって。駐車場に行くと、みんな帰った後で、私のクルマだけがポツンと残っている。疲れているんですけど、「私のクルマ、ちょっとかっこいいな」と思うんです。
飯田 そこで、少し気持ちが切り替わるんですね。
木村 クルマに乗って自分の世界に入ると、病院の緊迫した感じが緩むんです。家に帰ってホッとするのとはまた違って、仕事から自分へ戻るための時間だったのだと思います。
飯田 分かる気がします。私は愛車に名前までつけていますから。ボクスターは「ボクちゃん」、クロストレックは「クロちゃん」です。
木村 私はそのまま「Cクーペ」です(笑)。名前はつけていないけれど、同じモデルをもう一度選ぶくらいなので、やっぱり愛着はありますね。
飯田 名前をつけるかどうかは別として、愛情の持ち方は同じですね。以前、そろそろ買い替えようかと話した直後に、乗っていたクルマの幌が閉まらなくなったことがあったんです。「もしかして聞いていたのかな」と思って。それからは、出かけるときに声をかけたり、渋滞では「もう少し頑張ろう」と言ったりするようになりました。自分に言い聞かせているだけかもしれませんけどね。
木村 長く一緒に過ごしていると、単なる機械ではなくなりますよね
飯田 そうなんです。だからクルマに詳しくないからと、ご主人や販売店の人にすべて任せてしまうのではなく、一つでも自分のこだわりを入れてほしいと思います。色でも、形でも、使い方でもいい。「これで出かけたい」と思えるクルマを選んでほしい。
木村 毎日使う人が、自分で気に入ったクルマに乗ることは大切ですね。
飯田 ただ、感覚だけではなく、自分の使い方に合う安全性も考えてほしい。高速道路や渋滞が多いなら、そこで助けてくれる運転支援機能を選ぶ。長距離を走るなら、疲れにくさも大切です。装備だけでなく、車体やメーカーの安全に対する考え方まで含めて、自分が納得できる一台を探してほしいですね。
木村 私も通勤で毎日のように運転していたので、安全で疲れにくいことの大切さはよく分かります。でも、それだけでなく、駐車場で待っている姿を見て嬉しくなることも大切なんですよね。
飯田 クルマは雨をしのげて、荷物を積めて、行きたいところへ自由に行ける道具です。でも、実用性だけではない。自分の好きな色や形を選び、自分らしい空間にして、一緒に出かける。だから相棒になっていくのだと思います。

Yuko Iida
自動車ジャーナリスト。自動車メーカー勤務とレース参加を経て現職へ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ドライビングスクールのインストラクター歴は20年以上。執筆、講演、安全運転指導など幅広く活動する。

Utako Kimura
皮膚科医。獨協医科大学卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院へ。順天堂大学浦安病院皮膚科准教授、ドイツ・ミュンスター大学病院留学を経て、現在は順天堂大学皮膚科非常勤講師。趣味はトライアスロン。
飯田裕子さんが教える「運転がちょっと上手くなるTips」

まずは正しいポジションから
運転もスポーツと同じで、上手くなるためにはフォームが大切。自己流の姿勢で運転を続けていると、操作がしにくいだけでなく、疲れやすさや安全性にも影響します。まずはシートの位置を正しく整えることから始めましょう。
1.シートの奥に深く座る
まずはお尻をシートの奥まで入れ、骨盤を背もたれに当てるようにして座ります。腰が前にずれていると、強くブレーキを踏んだときに身体が先に動き、そのぶんペダルへ力を伝えにくくなります。背中は背もたれに預け、上体が安定する姿勢をつくります。
2.膝と肘には少し余裕を
ブレーキを奥まで踏んでも、膝が少し曲がっている位置にシートを調整。ハンドルを握ったときも、肘が伸び切らない距離にします。膝や肘に余裕がある方が、ペダルやハンドルを細かくコントロールしやすく、緊急時にも強くブレーキを踏み込めます。
3.かかとは床につける
アクセルは、かかとを床につけ、そこを支点にして操作します。つま先だけで踏もうとすると、動きが大きくなりがちです。ヒールや厚底、足首が動かしにくいブーツもペダルの感覚をつかみにくいので、車内に運転しやすい靴を用意しておくのがおすすめです。












